問題提起:
「DXを進めたいけれど、どこから始めればいいのか分からない」「社員の抵抗感や初期投資が不安」という悩みを抱える中小企業は少なくありません。現状維持では競争力を失いかねない中、DX推進は避けて通れない課題です。

記事を読んでわかること:
この記事では、超アナログ会社のDXを進めた筆者が、DXの本質やその重要性を解説するとともに、中小企業が直面する具体的な課題と、その解決に向けた5つのステップを紹介します。また、社員の不安や抵抗感を軽減し、スムーズにDXを進めるためのポイントについても詳しく解説します。

記事を読むメリット:
DXの成功には何が必要かを明確に理解でき、明日から取り組める具体的な方法が手に入ります。さらに、会社全体を巻き込みながら効率的に進めるためのヒントを得られるため、導入後の効果を最大化する土台を築くことができます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単に「ITツールを導入すること」ではありません。DXの本質は、デジタル技術を活用して 業務プロセスやビジネスモデルを根本から変革し、新たな価値を創出すること、もっと噛み砕いた言い方をすると、人の考えや行動がより良い方向に変わる事にあります。

中小企業にとってDXは、「時代遅れの業務をデジタル化する」だけではありません。市場競争力を高め、未来へ生き残るための戦略的手段です。しかし、「ツールが難しそう」「社員が慣れない」「投資が怖い」といった課題から、多くの企業が一歩を踏み出せずにいます。

今回はそんなDXを進める上でのポイントを解説したいと思います。

DXとは何か?その本質を理解する

2018年12月に経済産業省が「産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進」という施策を発表し、そこからDXという言葉が一般に普及するようになりました。DXとは、「デジタル技術を活用して企業文化、ビジネスモデル、業務プロセスを進化させ、顧客や社会に新たな価値を提供する」ことです。

例えば、大手EC企業のようにリアル店舗を持たずして世界的に展開するビジネスモデルは、DXによって可能になりました。中小企業においても、この考え方を取り入れることが競争力向上の鍵となります。

ただし、前述したように、DXには「ツール導入」以上の視点が必要です。それはデジタルを導入することで、人の考えや行動がより良い方向に向かう事です。例えば、

顧客視点:「顧客にとってどんな価値を生み出せるか?」を基準に考える
全社的な変革:業務の一部ではなく、全体を最適化する視点が重要

このように、DXの本質は単に「効率化」ではなく、「成長するための基盤を構築する」ことにあります。

中小企業が直面する3つの課題

さて、ではなぜ中小企業においてDX化が必要になってくるのでしょうか。まず現代の多くの中小企業が抱える課題について考えてみます。

人手不足

少子高齢化の影響で、労働力の確保が難しくなっています。これは特に手作業やアナログ業務の多い中小企業にとって深刻な問題です。

競争力の低下

良いものを作れば売れるというような時代から変革し、高度に成熟したと言われる現在の社会において、市場環境は急速に変化しています。顧客ニーズに迅速に対応するためには、データを活用した迅速な情報収集や意思決定が求められますが、紙や手作業が中心の業務では対応が困難です。

時代遅れの業務プロセス

効率の悪いプロセスがコストを増加させるだけでなく、社員のモチベーション低下にもつながります。また不要な業務に費やす時間的資源の浪費は、本来その業務においてやるべき価値のある仕事を圧迫してしまうという弊害を伴います。

DXによる期待される効果

では上記のような課題に対して、DX化によりどのような効果が期待できるしょうか。

業務効率の向上

DXを進める上で業務フローの見直しは不可欠。改めて業務を見直すことで、不要な作業をなくす事はもちろん、デジタルツールの利用やクラウド化、AIやRPAの導入により、繰り返し業務の自動化や効率化を進め、基幹業務から経理・請求業務まで、さまざまな業務の時間を大幅に削減できます。

新しいビジネス機会の創出

例えば、顧客データを分析して新しい商品開発を行う、オンラインマーケティングの強化で新しい顧客層を開拓するなど、斬新なアイデアや手作業では膨大な時間と労力がかかる業務を新たな視点で提供する事ができ、重要なビジネスチャンスを掴む可能性が広がります。

従業員満足度の向上

ルーチン業務が軽減され、社員がより創造的な仕事に時間を割けるようになります。各人員が本来やるべき、価値ある業務に資源を投下できるようになります。

ITリテラシー不足

ITツールやシステムに慣れていない社員が多い場合、「わからないから怖い」「やり方がわからない」といった心理的な壁が発生します。しかし、スマートフォンの普及率が90%を超えると言われている現代では、ビジネスパーソンとして、パソコン・スマートフォンいずれも一度も触ったことがないという人はほとんどいないでしょう。こうした状況においてはまず小さなステップから始めるのも効果的です。

解決案
小さなツール導入(例:チャットツール)から始め、社員が成功体験を得られる仕組みを作るなど

初期投資への不安

DXには費用がかかることが多いため、「本当に効果があるのか?」と不安を抱く経営者も多いでしょう。導入するツールにもよりますが、確かに基幹システムなどはイニシャルコストが大きく、その後もシステム保守費用や、クラウドベースのものであればサーバー費用など、ランニングコストとしても継続して費用が掛かることがあります。しかし導入による業務効率化の効果は、その後のビジネス規模の拡大に比例して大きく感じることができると思います。また必ず採択されるわけではありませんが、補助金・助成金などの手段を用いて資金を補填する事も可能になります。

解決案
・ITや小規模事業者継続化補助金、ものづくり補助金など、補助金や助成金の活用を検討する。特に中小企業向けのDX支援制度は豊富です。
・事業規模拡大の際に必要になる、追加の人件費や採用コスト、設備費などを試算して、経済的効果を検証するのも一つの方法です。

社員の抵抗感

「これまでのやり方でうまくいっていた」と考える社員が、変革に対して抵抗することはよくあります。これはその社員の年齢や経歴を問わず、必ずと言っていいほど発生する勢力であると考えるべきかもしれません。しかし人は適応できないという事はありません。根気強く定着化させることが一番重要な方法になります。

解決策
まずは全社的な方針としてDXを進めることを明確化する。その上で改革の必要性を丁寧に説明し、参加意識を高めるワークショップや研修を実施。時には1on1でコミュニケーションをとり、細かなサポートを行うのも有効です。

DXのプロセスはさまざま考えられますが、ここでは成功度が高いDXのステップをご紹介します。

STEP
DXの目的を明確化

まずは全社的な取り組みである事を大前提とします。社長であれ、最古参の社員であれ、決められたことは例外なく行う事を経営陣がコミットする事が重要です。その上で、なぜDXを行いたいのか、ゴールはどこかを明確にすることがスタートです。

例)属人化しない状況と時間的余裕を持つことで、お客様のために活動できる時間を生み出したいからなど

STEP
現状分析

各部署の現状をヒアリングし、業務プロセスを見える化、ボトルネックを特定した上で改善案を考えます。この時、ボトルネックにのみ焦点を当てるのではなく、業務全体を俯瞰してみて、現状は問題ではないが、改善の余地がありそうなものなども纏めて一覧にピックアップするとより効果を発揮します。また担当者個人がやりたいだけの視点ではないかの確認も重要です。

例)経理作業にどれだけの時間がかかっているか、紙で管理しているデータがどれだけあるか。社内での書類の収集はもちろん、社外にも協力が必要なのかなども併せて考えます。

STEP
完了後のイメージを作る

DX完了後に「このような形になっていたい」というような具体的なイメージを作ります。この段階でDXが可能か否かもしっかり判断しなければなりません。現状分析の結果を用いて、それぞれをデジタル化の可否、効率化の可否といった軸に分け、優先度を付けて目指すべき形を明確にします。この段階において、具体的なツールや必要な予算なども検討対象にしていきます。

例)発注方法の変更を行う。
デジタル化の視点:FAX発注している業務を電子(メール)発注に切り替える→デジタル化可能
効率化の視点:手書きの手間がなくなり、データを一括で自動送信できる→効率化可能

STEP
DXの方針を打ち出す

それぞれ個別の目標設定をして、やるべきことが決まったら、全社として方針を打ち出します。この時、目標のみを伝えるのではなく、どのように今後進めていくか、期間はどれくらいなのかも明確に打ち出します。初めは身近で簡単に実行可能なタスクから始めると、抵抗感が少なく進めやすくなります。

例)ExcelをGoogleスプレッドシートに移行して共有化を実現するなど

STEP
定着化させる

ここまで来たら後は社員との対話と教育を行い、地道な定着化を図ります。不安を解消するための説明会やトレーニングを随時実施すると効果的です。実際にツールを試用してもらい、「自分たちでもできる」と感じてもらいましょう。この時、例外行為は認めては行けません。必ずルールを守って行ってもらいましょう。もし最善の方法が別であるのではと提案された場合はそちらを精査し、採用するのであればその提案された方法を全社に共有する、徹底させるというプロセスを取る必要がある事は肝に銘じましょう。

例)毎週水曜日の14時から説明化を実施する。中々手を付けてくれない人には1on1を実施する等

当然これで終わりではなく、引き続き新しい課題解決のために継続したDX推進を行う事が重要です。

クラウド化

こちらはセキュリティリスクも含めて賛否があるかと思いますが、必要な情報にいつでもどこでもアクセスできる利便性や、ローカル管理・属人化防止の観点からもクラウドベースのDXをオススメします。

徹底させる(言い続ける)

前述したように、現行制度を変えたくないと考える反対勢力は一定数発生します。そんな社員であっても、必ず徹底させることが重要です。例え社長であってもやり方に反する方法を取っている場合は注意する必要があります。DX担当者はそのことを肝に銘じてください。また経営者においても、そこまでの発言権を持たせる覚悟で担当者を指名することが重要です。

100%の普及率にして初めて最大の効果があると心得る

DXを行うと90%の普及率で満足してしまう事もあります。確かに以前の状況に比べると目覚ましい改善がなされて、業務効率も向上していることに違いはありません。しかし、1人でも古いやり方を行っていると、データの管理が2重になる事もしばしば起こります。DXの目的を達成するためにも、例外は一切作らず100%の普及率を目指してください。

専門家への相談

コンサルタントや補助金アドバイザーを活用することで、DX推進は加速します。特にこれまでの内容を社内担当者だけで進めるには困難が生じます。業務の進め方や定着化の観点からも、コンサルタントを有効に活用することがDXの近道であると言えるでしょう。

DXは大きな変革に見えますが、実は泥臭く地道に進めなければいけない事も多々あります。しかし裏を返せば一歩一歩取り組めば確実に成果が出ます。まずは目的を明確に、会社としての取り組みであることをしっかり伝えた上で、小さな業務改善から始め、成功体験を積み上げていきましょう。そして最後までやりきる覚悟を持ってDX推進を行ってください。


弊社は社内だけでは難しい、「DX推進」をお手伝いします。今回ご紹介したような目的の設定から社内での定着化まで全面的なサポートも可能です。
手書きからの脱却はもちろん、Excel管理からシステムに移行したい、もっと効率的な業務に変更したいなど、業務フローの見直しレベルから経営者にとって有用な管理会計の構築まで幅広くお手伝いします。また最終的に自社で自走できる形を構築すべく、既存社員の育成や、新たな人材採用に必要な募集要項作成から面接に至るまで、ワンストップでサポート致します。是非ご相談ください。