問題提起:
経営者にとって事業の安定と成長を維持する上で、リスク管理と節税は避けて通れない重要課題です。しかし、これらを両立する具体的な方法について十分な知識を持っている経営者は少なく、結果として余計なリスクや税負担を抱えるケースも見られます。
記事を読んでわかること:
本記事では、保険を活用した効果的なリスク管理と節税の基本的な方法について解説します。事業リスクへの備え、経営者個人のリスク管理、従業員向け福利厚生、さらには保険を利用した具体的な節税方法についても分かりやすく説明します。
記事を読むメリット:
保険の仕組みを理解することで、万が一のリスクを回避しつつ、賢い節税を実現できます。経営資源を効率的に活用し、事業の成長と安定に向けた実践的な知識を得られる点が本記事の最大の魅力です。
はじめに
経営者にとって、事業の安定的な運営と将来のリスクへの備えは欠かせない課題です。一方で、効率的な資金運用を実現するためには節税も重要なテーマとなります。この2つの課題を同時に解決する方法として近年注目されているのが、「保険の活用」です。
保険は、万が一のリスクから事業を守るためだけでなく、計画的な財務戦略を通じて税負担を軽減する効果も期待できます。しかし、保険の仕組みや具体的な活用法を十分に理解していない経営者も多いのが現状です。
本記事では、経営者が保険をどのように活用すればリスク管理と節税の両面で効果を発揮できるのかについて、具体例を交えながら丁寧に解説します。初心者の方にもわかりやすく、専門用語を噛み砕いてお伝えするので、ぜひ最後までお読みください。
経営者が知っておくべき保険の種類
保険にはさまざまな種類がありますが、経営者が注目すべき保険は主に次の3つのカテゴリーに分類されます。それぞれの特徴と具体的な活用方法を詳しく見ていきましょう。
事業リスクに備える保険
事業運営においては、予期せぬ出来事が事業に大きな打撃を与えることがあります。以下の保険を活用することで、こうしたリスクに備えることが可能です。
火災保険
火災や自然災害で事業所や設備が損害を受けた場合、修繕費や復旧費用を補償してくれる保険です。2022年10月以降、最長10年だった保険期間が5年に短縮されました。特に製造業や飲食業など設備投資が多い業種にとって、火災保険は事業継続の要とも言えます。
失火責任法によると、軽過失によって火災を起こし、隣家等に損害を与えた場合、損害賠償責任を負わなくてよいと定められています。これは裏を返せば、隣家からの火災に巻き込まれた場合、損害賠償請求をできないという事になります。店舗を持つ多くの企業が加入されているかと思いますが、加入していない場合は注意が必要です。
賠償責任保険
顧客や取引先に損害を与えてしまった場合の賠償金を補償する保険です。例えば、店舗内での事故や製品の不具合による損害賠償請求をカバーすることができます。
具体的には、製造・販売した商品によって生じた事故で、被害者の治療費や慰謝料などを企業が負担する場合、その補償のための保険としての生産物賠償責任保険(PL保険)や施設内の商品が倒れてお客さんをケガさせた、自転車で商品を配達中に通行人とぶつかりケガをさせたなど施設や施設外の業務中に起こった損害に備えるための施設所有者賠償責任保険などがあります。
事業中断保険
自然災害や重大な事故で事業運営が一時停止した場合の損失を補填する保険です。売上減少だけでなく、固定費の支払いなども補償対象となるため、経営者の精神的負担も軽減します。
具体的には、台風の影響により工場が被害に遭い操業が停止した場合などの企業費用・利益保険などがあります。
経営者個人のリスクに備える保険
経営者は事業だけでなく、自身の健康や生命に関するリスクにも備える必要があります。
生命保険
経営者が亡くなった場合に、残された家族や事業のための資金を提供する保険です。事業承継や借入金の返済資金として活用されることが多く、特に中小企業の経営者にとっては欠かせない存在です。
また生命保険はリスクへの対応のみならず、経営者の役員勇退時の退職慰労金として活用する事も可能です。
医療保険
経営者自身が病気やけがで入院した場合の治療費をカバーする保険です。自身の健康リスクを管理することで、事業運営への影響を最小限に抑えます。
がん保険
特定の病気に備える保険として、がん保険も注目されています。早期発見時の治療費だけでなく、長期療養を支える保障も含まれるため、安心感を得られます。
またがん保険を包括する特約として存在する特定疾病保障保険特約(三大疾病保障保険特約)は保険金を受け取った時点で消滅してしまう物ですが、保険金を受け取らないまま死亡場合においても、生死原因を問わず保険金が支払われる、必ず1回は貰える特約という特徴があります。
従業員向けの福利厚生保険
従業員の満足度を向上させ、優秀な人材を確保するためには福利厚生の充実が重要です。
団体保険
従業員全体に医療や生命保険を提供する制度です。経済的負担を軽減しつつ、従業員のモチベーションアップにつながります。
具体的には団体定期保険(Bグループ保険)などがあり、1年更新の定期保険で従業員が任意で加入して保険料を負担するもので、保険料が割安になります。
退職金積立保険
従業員の退職金を計画的に準備するための保険です。毎月一定額を積み立てることで、突然の多額支出を避けることができます。
また、総合福祉団体定期保険は法人を保険契約者として、役員・従業員から被保険者になる事の同意を得た上で加入し、もしもの場合の慶弔金・死亡退職金を確保するためのものも存在します。
保険を活用した節税の具体例
保険はリスクに備えるだけでなく、税負担を軽減する手段としても有効です。具体的な節税方法を以下に詳しく説明します。
法人契約を活用した節税
法人が契約者となり保険料を支払う場合、一定条件のもとで保険料を経費として損金算入できます。これにより、利益を圧縮して法人税の負担を軽減することが可能です。
具体例:
法人が定期保険を契約し、年間保険料100万円を支払った場合、契約内容に応じて50%が損金算入可能であれば、50万円が経費として計上されます。これにより、税金の節約と資金運用の効率化を同時に実現できます。
解約返戻金のタイミングによる利益調整
解約返戻金が発生する保険は、返戻率が高いタイミングで解約することで利益調整を図ることができます。例えば、事業承継や設備投資のタイミングに合わせて解約返戻金を受け取ることで、必要資金を確保しつつ税負担を抑えることが可能です。
退職金準備のための保険
従業員の退職金準備に保険を活用することで、計画的な資金積立が可能になります。さらに、保険料を毎年経費として計上できるため、長期的な節税効果も得られます。
具体例:
退職金積立保険を導入し、従業員1人当たり月額2万円を積み立てた場合、10年後には約240万円の退職金を準備できるほか、毎年の保険料を経費として計上できます。
リスク管理と節税の両立方法
保険を適切に設計・活用することで、リスク管理と節税を同時に実現できます。
事業継続のための保険
経営者に万が一のことがあった場合、生命保険の死亡保険金が事業承継資金や従業員の給与補填に役立ちます。また、事業中断保険を活用することで、自然災害や事故による収益損失をカバーできます。
節税効果を最大化する保険設計
保険契約時に、保険料の損金算入割合や返戻金の受け取り時期を計画的に検討することが重要です。
保険種類の選択
節税目的で活用される保険には、「長期平準定期保険」や「逓増定期保険」などがあります。
例えば、長期平準定期保険は契約期間が長く、解約返戻率が一定期間低い特性を持ちますが、その間の保険料は損金算入の対象となります。
損金算入割合
契約内容によって損金算入可能な割合が異なります。
例えば、一般的な逓増定期保険では、保険料の50%が損金算入対象となるケースが多いです。
返戻金受け取りのタイミング
高い返戻率が得られるタイミング(契約から10年目以降など)を事業計画に合わせて設定することで、適切な資金調達と税負担軽減が両立できます。
保険選びのポイント
保険を選ぶ際には、経営者として慎重に検討すべき点がいくつかあります。以下にその詳細を挙げます。
事業ニーズの明確化
自社の業種、事業規模、収益モデルを十分に把握した上で必要な保険を選びましょう。
例えば、製造業では設備リスクへの対応が重要なため、火災保険や事業中断保険が適しています。
契約内容の詳細確認
解約返戻率、損金算入の可否、保険料の支払いスケジュールなど、契約の詳細を必ず確認しましょう。
契約前に複数の保険会社のプランを比較し、最適な条件を選ぶことが重要です。
保険会社の信頼性とサポート体制
保険会社の財務状況や顧客サポート体制を確認しましょう。
特に中小企業の場合、契約後のフォローアップや緊急時の対応がスムーズであるかが重要です。
長期的な視点での設計
保険は短期的な節税効果だけでなく、長期的な資金計画を視野に入れるべきです。
解約返戻金の受け取り時期や保険料の負担が事業計画に合致しているかを検討します。
導入後のフォローアップ
保険契約を締結した後も、その効果を最大化するためのフォローアップが欠かせません。以下に、経営者が押さえるべきフォローアップのステップを詳しく解説します。
頻度:
少なくとも年に1回は契約内容を確認。
目的:
事業環境の変化や新たなリスクに対応するため。
チェックポイント:
保険料の支払い状況返戻金の積立状況 保険の補償範囲が現状のリスクに対応しているか
方法:
経営状況や市場環境の変化に合わせてリスクを再評価します。
新しい事業を開始した場合や設備を増強した場合など、大きな変化があれば即時見直しを行うことが重要です。
効果:
保険の適用範囲が不足している場合に早期に対応可能。
専門家の活用:
税理士や財務コンサルタントと連携し、保険料の損金算入や解約返戻金の扱いについて相談します。
実施時期:
年度末の決算時期に特に重点的に実施。
目的:
従業員向けの福利厚生保険を導入した場合、その内容を従業員に理解してもらうことが重要。
方法:
定期的な説明会やマニュアルの配布、福利厚生の活用方法を示した事例紹介
効果:
従業員の満足度が向上し、保険の導入効果を最大限に発揮できる。
内容:
保険契約の効果を第三者の専門家にレビューしてもらい、改善点を明確化します。
頻度:
3年ごとを目安。
メリット:
契約内容が最新の税法やリスクに対応しているかを確認できる。
目的:
他社の成功事例を参考に、保険の活用をさらに最適化。
手法:
同業他社のケーススタディを調査。社内ミーティングで共有し、経営陣全体で活用策を検討。
期待効果:
競合との差別化を図りながら、リスク管理と節税効果を向上。
保険を利用し、安定した経営を
今回は保険に関しての概要に関して確認してきました。特に生命保険関連の活用は事業リスクへの対策としてはもちろん、節税にも大いに役立つ可能性があります。経営においては売上の向上を目指すのはもちろんの事、リスクへの対応も重要です。今回ご紹介した保険はもちろんの事、業務改善にも目を向けて、更なる一歩を目指してみてはいかがでしょうか。
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