問題提起:
経理業務を内製化したいと考える中小企業が増えていますが、実際に内製化を進める過程で直面する課題は数多く存在します。コスト削減や効率化を目指しても、専門知識の不足や初期コストの負担が大きな障壁となることがあります。

記事を読んでわかること:
この記事では、経理業務を内製化する際に直面する具体的な課題と、それらをどのように乗り越えるかを解説します。また、内製化がもたらすメリットやリスクについても触れ、成功事例を交えながら具体的な解決策を提案します。

記事を読むメリット:
この記事を読むことで、経理内製化に伴う問題を予測し、適切な対策を講じるための実践的な知識が得られます。経理内製化を成功させるためのステップや、効果的なシステム導入・人材育成のポイントも理解でき、経営判断に役立つ情報が手に入ります。

経理業務の内製化の定義

経理業務の内製化とは、企業が自社内で経理業務を処理することを指します。外部の会計事務所やアウトソーシング会社に業務を委託せず、社内の担当者が経費精算、請求書管理、給与計算、決算業務などの会計業務を行います。これにより、外部に依頼する際に発生するコストや手間を減らすことができます。

内製化を検討する背景やトレンド

最近の経理内製化は、企業の情報セキュリティの強化やコスト削減への関心が高まる中で注目されています。また、クラウド会計ソフトやERP(Enterprise Resource Planning)システムの普及により、従来よりも効率的に経理業務を行える環境が整ってきました。特に中小企業では、経営層がコスト削減やスピーディな意思決定を重視し、内製化を検討するケースが増えています。

経理を外注せず、社内で行うメリットの概要

経理を内製化することで、外注の手数料を削減し、社内で業務の透明性を高めることができます。さらに、リアルタイムで会社の財務状況を把握できるため、経営判断のスピードも上がります。また、外部に出す情報の管理が不要になるため、情報漏洩のリスクが低減します。そのためIPOに向けても経理の内製化を求められることもあります。

コスト削減効果が期待できる:外部に依頼するコストとの比較

外部の会計事務所やアウトソーシング会社に経理業務を依頼すると、当然のことながら手数料が発生します。これに対して、内製化を進めることで、社内で業務を賄うための固定費用が中心となり、外部費用の削減につながります。特に中長期的には、業務効率が上がることで、外部依存のコスト削減が見込まれます。ただし、当然ながら昇給は最低限考慮に入れる必要がありますし、業務量の増加により、人員を更に増やす必要性が生じたり、退職リスクがある事もあるため、予想外の採用コストが必要になる可能性も否定できません。費用削減のみを目的とした経理の内製化には、その点とのバランスを考慮し、注意する必要があります。

迅速な意思決定:社内でデータを即時に確認できる利点

経理データを外部に委託している場合、データを確認したいときに時間がかかることがあります。一方で、内製化すれば、財務データが社内にあるため、必要なときに即座に確認でき、経営判断をスピーディに行うことができます。また急な資金繰りの判断が必要なときも、社内で素早く判断・対応が可能になります。恐らく経理の内製化を求める多くの経営者はこの点を一番期待してと考えられます。

情報の機密性強化:財務情報を外部に出さないメリット

企業にとって、財務情報は非常に重要で機密性が高いものです。外注する場合、どうしても外部にその情報が渡ってしまうリスクがあります。内製化を進めることで、機密情報の社外流出リスクを低減できるため、セキュリティ面での安心感があります。ただし、この点も社内での情報の取り扱いに関する規程を整備するなど、最低限の制度を設けることも重要です。

社内での業務理解向上:社員の業務理解やスキルアップが進む

経理業務を内製化することで、社内の担当者が直接業務を行うため、経理に対する理解が深まります。これは、経営者と経理担当者が同じ目線で企業の財務状況を共有しやすくなり、より適切な経営判断を行うための基盤となります。また、担当者自身のスキルアップにもつながります。

フレキシビリティの向上:社内ルールに合わせた柔軟な運用が可能

経理業務を内製化すると、社内のルールや慣習に合わせた柔軟な対応が可能になります。外注先では細かい調整が難しいこともありますが、内製化により、自社独自の運用ができるため、より実態に即した経理運用が可能です。例えばICT化を進めている会社において、新たにシステム利用料などの勘定科目を設けて、財務会計を管理会計に近づけることで、より経営判断に役立つものを作成しやすくなります。

経営層との連携強化:経営と経理のコミュニケーションがスムーズに

内製化によって、経営層と経理部門の距離が近くなり、経営に必要なデータが迅速に提供されるようになります。これにより、財務戦略や投資計画において、タイムリーで正確な情報に基づいた意思決定が可能となります。

業務の効率化:システム導入などによる効率化の可能性

クラウド会計ソフトやERPシステムを活用すれば、経理業務を効率化でき、内製化のメリットがさらに高まります。自動化やデジタル化が進むことで、データ入力やチェック作業の手間が減り、ミスの防止にもつながります。

投資の必要性:システム導入や人材育成にかかるコスト

内製化には最低限の投資が必要です。たとえば、経理システムの導入や、担当者の採用・育成にかかるコストが発生します。また経理の内製化に限った話ではありませんが、前述したようにせっかく業務遂行レベルに至った社員であっても、退職リスクは一定程度発生します。急な退職やそれに対しての対応のため、追加で採用コストがかかる事も念頭に置かなければなりません。経営者はこの点を理解し、計画的に投資することが求められます。

専門知識の不足:社内で十分な知識や経験を持つ人材の確保が難しい

経理には高度な専門知識が求められますが、社内にそうしたスキルを持つ人材がいない場合、内製化が困難です。特に会計処理を始めとしたほとんどの業務を社外に任せていて、初めて内製化を試みる場合、内製化するにあたり必要な知識・経験はどのようなものになるのかの判断をできる人材も社内にいない事も多く、人材確保に大きな負担がかかります。また、社内に経理担当が居たとしても、ハイクラスの人材を確保するという事が、売り手市場の現状においては困難を極めます。
さらに経理担当者が一人の場合、その人が退職するリスクも考慮する必要があります。人材育成とともに、知識の継承(ノウハウの文書化)が重要です。

業務の複雑化:法律や税制の変更に迅速に対応できる体制が必要

経理業務は法律や税制に強く影響されるため、これらの変更に対して素早く対応することが求められます。内製化では、そうした対応力を維持するための体制を整える必要があります。内製化を整えたとしても、税理士などの顧問契約は維持し、申告時のサポートを継続してもらう事も検討すべきでしょう。

人的リソースの確保:人材不足の問題や、他業務とのバランス

経理業務を内製化する場合、社内の人的リソースが問題になることがあります。特に中小企業では、他業務と兼務するケースも多く、バランスを取ることが難しいです。この点については、効率化やシステム導入によって負荷を軽減することが解決策の一つですが、システム化の過程で、最低限の会計知識とITリテラシーは当然ながら、経理部門以外の協力も必要となる可能性がある事を考慮し、全社のプロジェクトとして捉える事が重要です。

内製化の目的、重きを置くポイントを明確にする

内製化にあたり、まず「なぜ内製化をするのか」を明確にする必要があります。そしてその目的を達成するためには少なからず、前述したような課題が生じることを理解することが必要です。また内製化の主たる目的をコスト削減とする場合は内製化が必ずコスト削減に繋がる訳ではないという事に注意が必要です。

適切なシステムの導入:クラウド会計ソフトやERPの活用

内製化を進める上で、クラウド会計ソフトやERPの導入は不可欠です。これにより、データの一元管理が可能となり、経理業務が大幅に効率化されます。特に中小企業では、コストパフォーマンスの高いクラウドサービスを利用することが推奨されます。

人材育成の重要性:経理担当者のスキルアップとトレーニング

経理内製化の成功には、担当者のスキルアップが重要です。定期的なトレーニングや外部セミナーの受講を通じて、最新の知識やスキルを習得させることで、業務の質が向上します。内製化専門のコンサルタントへ委託を含めて、経営層としても、これらの投資を惜しまないことが大切です。

内部統制の確立:ミスや不正を防ぐためのプロセス作り

内製化では、内部統制が重要です。不正やミスを防ぐために、複数の担当者によるチェック体制や定期的な監査を導入することで、リスクを最小限に抑えます。また、ERPシステムの活用により、プロセス全体の透明性を確保することもポイントです。

業務分担と効率化:経理業務の中で何を内製化し、何を外部委託するかの選定

すべての経理業務を内製化するのは理想的ですが、企業によっては難しい場合があります。そのため、内製化と外注をうまく組み合わせることが重要です。たとえば、日常の業務は内製化し、年次決算や税務対応は専門家に依頼するなど、バランスを取った業務分担が求められます。

内製化に成功した企業の例

ある中小企業では、IPOの準備のため、内製化コンサルティングを受けて、クラウド会計ソフトを導入し、経理業務の内製化に成功しました。この企業は、当初経理担当と呼べる人員は1名で、主な業務は請求書の整理と出納管理のみでした。システム導入にあたり1から管理項目と適合する会計処理を精査し、3ヶ月を目途に会計システムを運用開始。そこから長年勤めていた、経理に興味を持つパート社員の育成を行い、1年後には基本の月次処理を行えるレベルまで成長しました。さらに経営層と経理部門の連携が強化されたことで、より迅速な意思決定が可能になりました。

内製化の失敗事例とその原因

一方で、外部協力者の助けを得ずに、経理内製化を急いで進めすぎた結果、十分な人材育成やシステム導入ができず、ミスや業務遅延が発生した企業もあります。このような場合、初期段階での計画と準備不足が大きな原因です。

内製化を成功させるためには、適切なシステムの導入や人材育成、内部統制の確立が不可欠です。まずは、経理業務の現状を分析し、内製化する目的・範囲を明確にすることが重要です。また決して焦らず、外部の専門家の助言を受けながら、段階的に内製化を進めることをお勧めします。

弊社は10年以上に渡り、経理の内製化を手掛けてきた専門コンサルティングです。内製化を検討の際は是非一度ご相談ください。