問題提起:
スタートアップや中小企業にとって、効果的な予算作成は経営の成功を左右します。しかし、「どのようなアプローチで予算を策定すべきか?」という点で悩む経営者も多いのではないでしょうか。

記事を読んでわかること:
この記事では、ボトムアップとトップダウンの予算作成アプローチを中心に、その他のアプローチも交えた効果的な予算策定方法を解説します。それぞれの方法の特徴やメリット・デメリットが理解でき、自社に合った予算作成方法の選び方がわかります。

記事を読むメリット:
予算作成における最適なアプローチを学ぶことで、企業の成長を支える戦略的な予算策定が可能になり、事業の方向性を明確にした効率的な経営が実現できます。

前回の記事で予算作成の手法について学びましたが、それにアプローチ方法を加えることで、より自社に合った予算を作成することができます。アプローチ方法とは簡単に言うとどのように予算を吸い上げるかという観点になります。この記事では、代表的なボトムアップとトップダウンのアプローチに加え、それに関連するその他の予算作成方法を解説します。それぞれの特長やメリット・デメリットを理解し、自社に合った予算の吸い上げ方を選ぶための参考にしてください。

ボトムアップ方式

ボトムアップ方式は、現場や各部署が必要な予算を下から積み上げていくアプローチです。例えば、営業部門が「新しい市場開拓に300万円が必要だ」と提案し、製造部門が「原材料費として500万円が必要だ」と報告するように、現場のニーズが反映されやすいのが特徴です。

メリット
  • 現場のニーズを反映できる:実務に携わる現場社員が実際に必要とするリソースを提案するため、実用的な予算を策定できます。
  • 従業員の関与が高まる:各部署が予算作成に参加することで、企業目標の達成に向けたモチベーションやコミットメントが高まります。
デメリット
  • 全体の統一性が失われやすい:各部署が個別に予算を要求するため、全体の予算管理が難しくなり、統一性が欠ける可能性があります。
  • 調整に時間がかかる:各部署の予算要求を一つにまとめるため、経営層との意見調整が必要で、予算策定に時間がかかることも。

トップダウン方式

トップダウン方式は、経営層が事業目標に基づいて予算の枠組みを先に決定し、各部署にその枠内での予算案を提出させる方法です。たとえば、「今期は10%の利益増を目指すため、販売促進費を前年比20%増加する」といった形で、経営目標に沿った予算が割り当てられます。

メリット
  • 戦略的目標に基づいた予算設定:企業の全体戦略や目標に合わせて予算を決定できるため、方向性が明確になります。
  • 迅速な決定が可能:経営層の意思決定に基づいて予算を策定するため、迅速な予算決定が可能です。
デメリット
  • 現場の意見が反映されにくい:経営層の判断だけで予算が決まるため、現場の実情を反映しづらい側面があります。
  • 実行面でのギャップが生じやすい:現場の実情に即していない予算が割り当てられると、実行面での問題が発生する可能性があります。

予算作成においては、「ボトムアップ」と「トップダウン」という2つのアプローチがよく知られていますが、それだけではありません。企業の状況や成長段階に合わせて、柔軟に対応できる「ハイブリッド方式」や「ゼロベース予算」「インクリメンタル予算」といった方法もあります。それぞれの特徴とメリット・デメリットを理解し、自社に合った方法を選ぶことで、より効率的な予算管理が可能になります。

ハイブリッド方式とは

ハイブリッド方式は、ボトムアップとトップダウンの両方の要素を取り入れた予算作成アプローチです。これは、まず経営層が企業全体の目標や予算の枠組みを設定し、その後に各部署が詳細な予算案を作成・提案していく形です。経営の方向性と現場のニーズを両立させたい企業に適しています。

ハイブリッド方式のプロセス

トップダウンでの枠組み設定
経営層がまず、企業全体の戦略目標や達成すべきKPIに基づき、大枠の予算を設定します。この段階で成長目標やコスト削減目標が共有され、経営の方向性が示されます。

ボトムアップでの詳細作成
各部署が経営目標に沿って必要な予算を積み上げて提案します。現場の視点から具体的な活動やリソースが考慮されるため、より実用的な予算案となります。

最終調整
経営層と各部署が協力して予算案の最終調整を行い、全体のバランスを整えます。

メリット
  • 戦略と実情の両方を反映できる:トップダウンとボトムアップの利点を組み合わせ、経営戦略と現場のニーズを同時に満たします。
  • 現場の意見を取り入れやすい:現場の状況やニーズを反映できるため、現実的かつ実行可能な予算が作成されやすいです。
デメリット
  • プロセスが複雑:トップダウンとボトムアップの調整に時間とリソースがかかります。
  • 意見の衝突が発生しやすい:経営層と現場の意見が対立することがあり、調整が難航する場合もあります。

それぞれの予算作成アプローチには特有のメリット・デメリットがあるため、自社の規模や成長段階、また現在の経営戦略などを考慮し、状況に応じて適切な手法と組み合わせ、柔軟に対応することが重要です。以下に、企業の状況に応じた選択方法の目安をまとめました。

スタートアップ(シードステージ又は創業~3年程度)

トップダウンをメインとし、企業の成長戦略に沿った予算を策定します。まだ創業メンバーのみの規模感である事が多く、急成長を目指すスタートアップでは、予算を迅速に策定し、計画通りに実行することが重要です。

迅速な成長を目指すスタートアップ(アーリーステージ又は創業8年程度まで)

この段階においては、現場の意見も重要となってくるため、まずはハイブリッド方式でトップダウンの目標設定を行い、その後ボトムアップでの現場視点を加味することで、柔軟かつ現実的な予算を策定します。併せて各部署の責任者に予算策定スキルを身に付けさせることが重要になります。

成長期の中小企業(ミドル・レーターステージ以上または複数の事業を営む)

引き続きハイブリット方式が望ましいと考えられますが、ボトムアップ方式とローリング予算(四半期など一定期間ごとに見直しを行う手法)を組み合わせ、現場のニーズを反映しつつ、柔軟に対応できる予算管理を行います。これにより、実情に即した予算策定が可能です。

予算作成は、会社の経営戦略にとって欠かせない重要な作業です。ボトムアップやトップダウンといったアプローチは、それぞれにメリットとデメリットがあります。最後に再度重要なポイントをピックアップしました。

効果的な予算作成のポイント
  • 自社の状況や目標に応じたアプローチを選択する。
  • 定期的な見直しを行い、柔軟に調整する。
  • 各アプローチの特性を理解し、適切に組み合わせる。

予算の作成には時間と労力がかかることもありますが、適切な方法を用いることで、成長を支え、目標達成に向けての指針となる予算管理が実現できます。事業の発展のために、是非予算作成に取り組んでみてください。


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