問題提起:
予算作成は、企業経営において戦略的な意思決定を支える重要な要素です。しかし、多くの中小企業やスタートアップでは、どの予算の種類が自社に適しているのか迷うことが多いのではないでしょうか。

記事を読んでわかること:
本記事では、予算を「目的別」「期間別」「対象別」「管理アプローチ別」の4つの視点から詳しく解説し、それぞれの特徴や活用法を紹介します。

記事を読むメリット:
自社の経営状況や目標に合った予算作成手法を理解し、より効果的な予算管理ができるようになります。また、適切な予算選定によって、限られたリソースを最大限に活用できるようになります。

企業の経営において、予算作成は戦略的な意思決定を支える重要なプロセスです。特に中小企業やスタートアップ企業では、限られたリソースを最大限に活用するために、効果的な予算管理が欠かせません。しかし、予算にはさまざまな種類があり、自社に最適なものを選ぶのは容易ではありません。

本記事では、予算を「目的別」「期間別」「対象別」「管理アプローチ別」の4つの切り口から分類し、それぞれの特徴と活用法をわかりやすく解説します。これにより、自社の経営状況や目標に合った予算作成手法を見つける一助となれば幸いです。

まずは、予算の用途や目的に基づく分類です。企業が何を達成したいのか、どのような情報を得たいのかによって、以下のような予算が用いられます。

BS(貸借対照表)予算 (Balance Sheet Budget)

概要:BS(貸借対照表)予算は、企業の資産、負債、純資産の状況を予測するための予算です。バランスシートの将来的な姿を描くことで、財務的な健全性や資金調達の必要性を評価します。

特徴

  • 長期的な資本構成の計画:資産と負債のバランスを取り、最適な資本構成を維持するために役立ちます。
  • 資金繰りの予測:将来的な資金需要や余剰資金を見極め、適切な資金運用を行う基盤となります。

活用場面:大規模な投資計画や資金調達を検討している場合、または財務体質の強化を目指す企業に適しています。

一方で、PL(損益計算書)予算に比べてBS(貸借対照表)予算の作成は難しい事があげられます。一般的にPL(損益計算書)は一定期間における企業の成績を反映するものであるのに対し、BS(貸借対照表)は一時点の企業の富の状態を表すと言われます。そのため、予実分析を行った際、売上が1ヶ月ズレるだけでもBS(貸借対照表)予算は大きくズレが生じてしまう可能性があります。また売上や仕入に付随して発生する消費税などに関してもしっかり管理しないと、正確なBS(貸借対照表)予算は作成できないため、難易度は高いと言えるでしょう。

PL(損益計算書)予算 (Profit and Loss Budget)

概要:PL(損益計算書)予算は、売上高、コスト、利益を予測するための予算です。損益計算書の将来的な姿を描くことで、収益性の管理やコスト構造の最適化を図ります。

特徴

  • 短期的な収益性の管理:月次や四半期ごとの利益をモニタリングし、目標達成度を評価します。
  • コスト管理:固定費と変動費を明確にし、コスト削減のポイントを見つけることができます。

活用場面:新製品の投入や市場拡大を計画している企業、収益性の向上を目指すスタートアップに有効です。

一般的に「企業における予算」はこのPL(損益計算書)予算の事を指す場合が多いと思われます。PL(損益計算書)予算を作成するにあたり、単なる希望的観測ではなく、勘定科目ごとに細分化して分析し、売上予算や採用計画を反映した人員予算を合わせて作成し、最終的なPL(損益計算書)予算に反映することが多いです。

キャッシュフロー予算 (Cash Flow Budget)

概要:キャッシュフロー予算は、現金の流入と流出を予測し、資金繰りを管理するための予算です。

特徴

  • 資金不足の回避:現金不足による経営リスクを未然に防ぎます。
  • 投資タイミングの最適化:余剰資金の有効活用や、資金調達の適切なタイミングを見極めます。

活用場面:資金繰りが厳しい中小企業や、急成長によるキャッシュフローの変動が大きいスタートアップに適しています。

一方で、通常キャッシュフロー予算作成に至るプロセスとしてはPL(損益計算書)予算を作成し、次にBS(貸借対照表)予算を作成、そして最後にその2つのデータを持ってキャッシュフロー予算作成に至ります。そのためBS(貸借対照表)予算と同様に作成が難しい事があげられます。そのため、まずは数ヶ月分の簡易的な資金繰り予算ないしは資金繰り予定表を作成、運用することが現実的な方法になるかと思います。

次に、予算を設定する期間による分類です。企業の戦略や業界の特性に応じて、予算期間を選択することが重要です。

月次予算 (Monthly Budget)

概要:月単位で収益やコストを管理する予算です。

特徴

  • 詳細なモニタリング:毎月の業績を細かくチェックでき、問題の早期発見が可能です。
  • 迅速な対応:異常値やトレンドの変化に対して、迅速な対策を講じることができます。

活用場面:変動が激しい業界や、細かな業績管理が必要な企業に適しています。

一方で、予算の精度が高くない状況下での月次での予算管理は、当然ながらデータの収集や分析に時間と労力がかかります。

四半期予算 (Quarterly Budget)

概要:3か月ごとの目標設定と進捗確認を行う予算です。

特徴

  • フレキシブルな調整:市場環境の変化に対応しやすく、中期的な戦略にも対応可能です。
  • バランスの取れた管理:月次よりも負担が少なく、年間予算よりも柔軟性があります。

活用場面:市場変化に迅速に対応する必要がある企業や、成長フェーズにあるスタートアップに有効です。

上場企業であればこの四半期における予算実績対比は開示内容にも関わってくる重要な指標となりますが、非上場の中小企業では法的にこれらの情報を求められることはありません。とは言え、1つの指針として、四半期ごとの予算と実績の振り返りが経営に有用な情報となる事は言うまでもないでしょう。

年度予算 (Annual Budget)

概要:1年間の経営計画に基づいて作成される予算です。

特徴

  • 長期的なビジョンの共有:企業全体の方向性を示し、組織の一体感を高めます。
  • 資源の最適配分:長期的な投資計画や人材育成など、戦略的な資源配分が可能です。

活用場面:安定した事業を展開している企業や、長期的なプロジェクトを抱える企業に適しています。

ほとんどの企業がまずはこの年度予算を需要な指標と考えるかと思います。一方で、1年間は比較的長期間であるため、市場の変化や不確定要素に影響を受けやすく、予算と実績の差異が大きくなったり、経営判断が遅くなってしまう可能性もあります。適宜、判断ができる体制が重要です。

予算をどの対象に対して設定するかによる分類です。企業の組織構造や事業内容に応じて、適切な対象を選びます。ここで作成された個別の予算がBSやPLの予算に影響を与えるものになります。

売上予算 (Sales Budget)

概要:企業の販売活動に関する予測を立てるための予算です。売上高を見積もり、その達成に向けた戦略を具体化するために使われます。

特徴:売上予算は「PL予算(損益計算書予算)」の一部として重要な役割を果たします。企業の利益を予測するための基盤となるのが売上予算であり、その見積もりによって、経費や利益目標も設定されます。

活用場面:新製品投入時や、既存製品の市場拡大戦略を練る際に、売上予算は事業成功の鍵となります。また、季節変動の激しい業界や、消費者動向の変わりやすい市場でも正確な売上予算は不可欠です。

人員予算 (Personnel Budget)

概要:企業の従業員にかかるコストを見積もるための予算で、給与、社会保険、福利厚生費用などを含みます。人件費は多くの企業にとって大きなコスト項目であり、適切な予測が企業の財務健全性を左右します。

特徴:人員予算は「PL予算(損益計算書予算)」の構成要素であるのと同時に、「事業部別予算」や「プロジェクト予算」の一環として管理されることが多いです。特に人員を管理する部門や特定のプロジェクトに対して、必要な人材リソースを確保するために計画されます。

活用場面:従業員の採用計画や昇給、昇進、福利厚生の拡充など、企業の成長や人材管理戦略に応じて人員予算は活用されます。特に人件費が固定費として企業の経営に大きな影響を与えるため、慎重な計画が必要です。

プロジェクト予算 (Project Budget)

概要:特定のプロジェクトに焦点を当て、その達成に必要なリソースとコストを計画する予算です。

特徴

  • コスト管理の明確化:プロジェクトごとの収益性やコストを明確に把握できます。
  • 成功の確実化:必要な資源を適切に配分し、プロジェクトの成功率を高めます。

活用場面:新製品開発や市場拡大など、特定の目的を持つプロジェクトを進める際に有効です。

事業部別予算 (Departmental Budget)

概要:各部門や事業部ごとに独立して作成される予算です。

特徴

  • 責任の明確化:各部門の業績責任が明確になり、管理がしやすくなります。
  • パフォーマンス評価:部門ごとの成果を評価し、改善点を見つけやすくなります。

活用場面:複数の事業領域を持つ企業や、組織が大きく部門間の管理が必要な場合に適しています。

製品別予算 (Product-Specific Budget)

概要:各製品やサービスごとに利益やコストを割り当てる予算です。

特徴

  • 収益性の分析:製品ごとの収益性を把握し、不採算製品の見直しや重点投資の判断ができます。
  • マーケティング戦略の策定:製品ライフサイクルに合わせた戦略立案が可能です。

活用場面:多品種展開をしている企業や、製品ラインナップの最適化を図りたい場合に有効です。特に自社商品を製造する場合などは需要な予算になります。

予算作成の進め方や組織の方針に基づく分類です。企業文化やリーダーシップスタイルによって、適切なアプローチを選択します。

トップダウン予算 (Top-Down Budgeting)

概要:経営層が全体の戦略目標と予算枠を設定し、各部門に割り振る方法です。

特徴

  • 戦略の一貫性:企業全体の方向性を統一しやすい。
  • 迅速な決定:経営層の判断でスピーディーに予算作成が可能。

デメリット

  • 現場のニーズ反映不足:現場の具体的な要望や課題が十分に考慮されない可能性があります。

活用場面:明確な戦略を持ち、それを徹底したい企業や、緊急の対応が必要な場合に適しています。

ボトムアップ予算 (Bottom-Up Budgeting)

概要:各部門が必要な予算を積み上げて全体の予算を形成する方法です。

特徴

  • 実現可能性の高さ:現場の実情に基づいているため、無理のない予算設定が可能。
  • 従業員のエンゲージメント向上:予算作成に参加することで、責任感とモチベーションが高まります。

デメリット

  • 全体最適の難しさ:各部門が自部門の利益を優先することで、全体のバランスが崩れる可能性があります。

活用場面:従業員の意見を積極的に取り入れたい企業や、現場の知見が重要な場合に有効です。

ゼロベース予算 (Zero-Based Budgeting)

概要:前年度の予算にとらわれず、すべての費用をゼロから再評価し、必要な支出だけを計上する方法です。

特徴

  • コスト削減の効果大:無駄な支出を徹底的に排除できます。
  • 戦略的な資源配分:重要度の高いプロジェクトや部門に資源を集中できます。

デメリット

  • 時間と労力が必要:詳細な分析と評価が求められるため、予算作成プロセスが煩雑になります。

活用場面:大幅なコスト削減を目指す場合や、組織改革を行う際に適しています。

予算作成は、企業の経営状況、成長ステージ、事業目標によって最適な種類が異なります。以下のポイントを考慮して、自社に合った予算作成手法を選びましょう。

  • 企業の規模と組織構造:小規模な組織ではシンプルな予算が適しており、大規模な組織では詳細な予算が必要です。
  • 経営戦略と目標:短期的な利益を重視するのか、長期的な成長を目指すのかによって、予算の焦点が変わります。
  • 業界特性と市場環境:変動の激しい業界では、柔軟性の高い予算が求められます。

予算の柔軟性や詳細さをどの程度必要とするかを慎重に検討し、目的に合った予算を作成することが重要です。最終的にはBS・PL・キャッシュフロー財務三表の予算を月次レベルに落とし込んだ上で、中長期計画(3年~5年)で作成することが目標になるかと思いますが、まずは年間のPL予算から始めたり、その構成要素の一つである売上予算から始めたりするだけでも一定の効果があるでしょう。また、予算作成は一度きりではなく、定期的な見直しと調整が必要です。トライアンドエラーを繰り返し、自社にあった予算を作成してみてください。


もし予算作成に不安がある場合や、専門的なサポートが必要な場合は、専門家の助けを借りることをおすすめします。弊社は最終的なゴールを自社での経理業務完結、「経理の内製化」とする会社を全面的にサポートします。
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