問題提起:
限られたリソースで事業を成長させるには、適切な予算作成が欠かせません。しかし、どの予算手法が自社に最適なのか、多くの経営者が迷っています。予算作成は、単なる数字の管理ではなく、企業の未来を左右する重要な戦略です。
記事を読んでわかること:
この記事では、代表的な予算作成手法である「ゼロベース予算」や「KPI予算」などの特徴と活用シーンを解説します。さらに、各手法がどのような企業や場面に適しているか、実践的なポイントも紹介します。
記事を読むメリット:
自社に最適な予算手法を理解し、限られた資源を効果的に活用できるようになります。この記事を参考に、予算作成のスキルを向上させ、持続的な成長に向けた経営の基盤を築きましょう。
はじめに:なぜ予算作成が重要なのか
企業運営における予算作成は、事業の成功と成長を支える重要な要素です。特にスタートアップや従業員数が30~50名の中小企業にとっては、限られた資源をいかに最適に配分し、短期・長期の目標を達成するかが経営の鍵になります。予算がないと、支出の優先順位が曖昧になり、成長のために必要な投資ができないリスクもあります。また、実績を評価し、次年度に改善を加えるための基盤にもなります。
しかし、多くの経営者は予算作成に慣れておらず、適切な手法を選ぶことに悩むことも少なくありません。
この記事では、予算作成の基本的な考え方、主要な予算の分類、および適用できる予算作成の手法について詳細に解説します。さらに、予算作成がもたらす効果を最大化するためのポイントもご紹介しますので、ぜひご参考ください。
予算作成方法の概要
予算作成には多くの方法があり、それぞれの特性を活かすことで、事業に合った予算策定が可能になります。以下、代表的な予算作成手法をご紹介し、適切な状況で活用できるようにします。
- 増分予算 (Incremental Budgeting)
- ゼロベース予算 (Zero-Based Budgeting)
- 活動基準予算 (Activity-Based Budgeting)
- プログラム予算 (Program Budgeting)
- 目標達成予算 (Target-Based Budgeting)
- KPI予算 (KPI-Based Budgeting)
各予算手法の詳細説明
増分予算 (Incremental Budgeting)
特徴: 増分予算は前年度の実績に基づき、若干の増減を行って予算を策定する方法です。既存の事業内容が比較的安定している企業には適しており、前年度の売上や費用を基に増分を計算することで、予算策定にかかる労力を抑えられます。
メリット: 直観的で簡単、かつ迅速に予算を策定することが可能です。過去の実績が明確であれば、前年から大きく変わらない予算策定ができます。
デメリット: 新しい事業活動や急成長している分野に適さないため、イノベーションを求める企業ではリスクが伴います。また、詳細な科目分析が行われない事も多く、無駄なコストがそのまま引き継がれる可能性もあります。
ゼロベース予算 (Zero-Based Budgeting)
特徴: ゼロベース予算は、前年の実績にとらわれず、全ての活動をゼロから見直して予算を設定する方法で、積み上げ式の予算策定になります。無駄なコストを削減し、最も必要な活動に資源を集中させるための手法です。
メリット: 成長志向が強い企業や、新規事業を開発しているスタートアップに最適です。リソースを再分配し、重要な事業に重点を置くことができます。
デメリット: 大きな労力がかかり、特に小規模企業には時間的・人的リソースが必要になる点が難点です。また、予算策定に時間がかかるため、毎年の見直しが難しいケースもあります。
活動基準予算 (Activity-Based Budgeting)
特徴: 活動基準予算は、特定の活動やプロジェクトごとにコストを評価して予算を設定します。各活動のコスト要因を分析し、実際の活動内容に基づいて予算が割り当てられます。
メリット: 各活動にかかるコストが明確になるため、経営資源の適正配分が可能です。無駄な支出を抑えることで、効率的な経営が可能になります。
デメリット: 事前準備として、非財務データを含めた複雑な活動の分析が必要で、特に部門間の連携が多い企業では設定が難しくなります。
プログラム予算 (Program Budgeting)
特徴: プログラム別に予算を組む手法で、特定のプロジェクトや部門に特化した予算編成です。新規プロジェクトの立ち上げなど、部門ごとの成果が求められる場合に利用されます。
メリット: プロジェクトごとの成果が明確になるため、予算と実績の比較管理しやすくなります。
デメリット: それぞれのプロジェクト或いは部門の管理者に予算作成能力を問われる事が多くなります。またボトムアップ型の予算策定と相性が良い反面、部門を越えた全社でのコスト管理が複雑になりやすく、計画的な統合管理が必要です。
目標達成予算 (Target-Based Budgeting)
特徴: 企業の達成したい目標に必要なリソースを逆算して予算を組みます。例えば、売上目標を達成するための必要経費を算出するなど、目標に基づいた資源配分が行われます。
メリット: 経営目標と予算を連動させやすく、組織全体で共通のゴールに向かうことができます。増分予算のようにこれまでの実績をもとにもっと踏み込んだ具体的な数字目標を反映させやすくなります。
デメリット: 費用予算を単純に「使っていい金額」と捉えてしまうと、目標が達成されない場合、コストの無駄が生じやすいです。
KPI予算 (KPI-Based Budgeting)
特徴: 各部門やプロジェクトに対してKPI (Key Performance Indicator) を設定し、その達成に必要なリソースやコストを予算化します。
メリット: 具体的な成果指標に基づいているため、目標管理が明確であり、現場が動きやすい点、そして予算執行の効果が測りやすいと考えられます。
デメリット: KPIを追う事のみに必死となり、それ以外の事が蔑ろになったり、場合によっては部署間の軋轢の原因となる事が考えられます。またKPI設定が不適切だと、偏った予算配分や非効率なリソース使用を招くリスクがあります。
その他の予算策定手法
ご紹介した代表的な作成手法以外にも以下のような方法があります。
価値ベース予算 (Value-Based Budgeting)
特徴: 価値ベース予算は、企業の長期的な価値創出を目指して予算を策定します。短期的な利益よりも、将来的に企業価値を高める活動に予算が配分されます。
メリット: 長期的な目標に基づくため、持続的な成長を目指す企業に最適です。イノベーションの促進にもつながります。
デメリット: 成果がすぐに見えにくい場合が多いため、短期的なコスト管理が課題となることがあります。また創出される価値の算定を始め、把握が難しい予算手法で、予算と実績の乖離が大きくなる可能性を秘めており、スタートアップや中書企業においては実施が難しい方法です。
ローリング予算 (Rolling Budgeting)
特徴: 一定期間ごとに予算を見直し、更新する手法です。四半期ごとなど、定期的に予算の見直しを行うため、予算が最新の状況を反映します。こちらは手法の一つとして捉えるというよりは、他の予算作成手法と併せて実施する事で、効果を発揮するものと考えて頂いた方が良いかもしれません。
メリット: 変動の大きい市場や不確実性が高い業界に適しており、スタートアップが急成長する際にも柔軟に対応可能です。
デメリット: 頻繁な見直しが必要なため、経理部門への負担が増えることがあります。
予算手法の選び方:自社に最適な予算手法を見極める
予算手法の選択は、企業の規模や事業フェーズ、成長戦略に応じて決定するのが最適です。例えば、過去の実績がないスタートアップや、時間を掛けてでも無駄なコスト削減を目指す場合は「ゼロベース予算」を用いて積み上げ式の予算を作成することが適しています。過去と同じように安定した成長を望むならば「増分予算」が有効ですが、少し思い切った目標を掲げるのであれば「目標達成予算」を採用し、全社としての方針を明確に伝えるのが有効かもしれません。また、各部署やプロジェクトに裁量を与える方針で予算を作成するのであれば、「活動基準予算」や「プログラム予算」を採用し、ボトムアップ式の予算作成をするのも良いでしょう。
一度決めた予算手法に拘らず、予算作成方法に関しても見直しを行う事は有用です。
予算作成のベストプラクティス
予算作成は、単に数字を埋めるだけではなく、企業戦略と目標に基づいて効果的に計画を立て、定期的に見直すことが重要です。ここでは、予算作成を成功させるための具体的なヒントや注意点、さらに便利なツールについて解説します。
定期的な見直しと更新
予算作成は一度決めたら終わりではありません。特にスタートアップや小規模企業は、事業環境や成長速度が早いため、四半期ごと、または半年ごとに見直すとよいでしょう。定期的な見直しは以下の点で役立ちます。
- 適応力の向上: 予算を最新の事業状況に合わせることで、急な市場変化にも迅速に対応できます。
- 柔軟な資源配分: 見直しにより、無駄なコストを削減し、必要な部門やプロジェクトにリソースを再配分できます。
- 目標との整合性: 新しい目標や戦略が生まれた場合、それに合わせて予算を調整し、事業の方向性を一致させることができます。
KPI設定による予算管理の可視化
KPI(重要業績評価指標)は、企業目標と予算の執行状況をリンクさせ、定量的に評価するために非常に役立ちます。KPIを設定することで、各部門の成果が予算にどう反映されるかを可視化しやすくなり、予算執行の効果も測定可能です。
具体的なKPI設定のポイント
KPIは「売上成長率」「顧客獲得数」「コスト削減率」など、企業の事業目標に直結するものを選びましょう。たとえば、「売上成長率」を重視するなら、そのKPI達成に向けた広告費の増減や営業予算の調整が予算の実行判断に役立ちます。
定期的なモニタリング
KPI達成度を追跡し、予算配分が効果的かを検討することで、改善が必要な領域が明確になり、次回の予算作成に反映できます。
予算作成に役立つツールの活用
予算作成や管理のプロセスをスムーズにするため、以下のような予算管理ソフトやツールを活用することをおすすめします。これらのツールは効率を上げ、予算の可視化を支援し、データに基づく意思決定を容易にします。
エクセルテンプレート
簡単な予算管理には、事前に作成されたテンプレートを使用すると便利です。基本的な収支の入力項目が用意されているため、スムーズに数字を入力し、収支計画を管理できます。
クラウドベースの予算管理ツール
「freee」や「マネーフォワード クラウド会計」などのソフトウェアは、収支管理と予算作成を効率化します。クラウド上でリアルタイムにデータが更新されるため、いつでも最新の予算状況が確認可能です。
KPIダッシュボード
KPIの進捗を一目で確認できるダッシュボードも役立ちます。Looker StudioやTableauなどのツールは、データの視覚化に優れており、予算と実績を比較しやすくします。
フィードバックと部門間の協力を活かす
予算は経営者や管理者だけでなく、各部門が協力して作成し、運用されるべきものです。フィードバックの収集や意見の交換により、現場の実態を反映した現実的な予算計画が可能となります。
部門からのフィードバック
各部門からの収支報告や費用の課題についての意見を取り入れることで、現場の事情を踏まえた柔軟な予算策定が可能です。
透明な予算プロセス
各部門に予算の使用目的と根拠を共有し、意思決定に対する理解と協力を促します。透明性が高まることで、部門全体で予算達成への意識が向上します。
まとめ:予算手法の活用で成長戦略を支える
企業の成長を支えるためには、予算手法の選択を経営目標に沿ったものにすることが重要です。適切な予算管理を行うことで資源配分を最適化し、持続的な成長を実現できるでしょう。予算作成は単なる数字合わせではなく、企業の未来を見据えた戦略的な決定の一部であり、効果的な予算管理によって事業の成長基盤が強化されるのです。
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